注射(抗体医薬)とは
「抗体医薬」という喘息の注射薬があります。これまでの治療では十分な効果がなかった患者さんに、広く使われるようになってきています。
昭和大学医学部 内科学講座
呼吸器・アレルギー内科学部門
主任教授
抗体医薬とは
私たちの体は、病原菌などの異物(抗原)が体内に入ってくると、その異物と結びつく「抗体」を作り、異物を無毒化するはたらきを持っています。これは「抗原抗体反応」という、人間に備わっている免疫機能です。抗体医薬は、この「抗原抗体反応」の仕組みを人工的に利用した薬です。例えば喘息の場合、喘息の原因物質に対する抗体を投与し、原因物質のはたらきを抑えます。抗体医薬は新薬の開発が進んでおり、がんや関節リウマチをはじめさまざまな病気で使われており、喘息の治療でも使用されています。
喘息治療における
抗体医薬の種類とはたらき
抗体医薬(生物学的製剤)は、最先端のバイオテクノロジー技術によって、生物が作り出すたんぱく質などを利用して作られる薬です。
現在、喘息では5種類の抗体医薬(生物学的製剤)が用いられています1)。いずれも重症の患者さんに使われる注射薬で、喘息の発作を起こりにくくするはたらきがあります。
抗体医薬は、これまでの治療では十分に症状を抑えられない重症の患者さんに用いられます1)。薬の種類によって、2週間から2ヵ月に1回注射します。
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01
抗IgE抗体製剤
IgE抗体※1がかかわる
アレルギー反応を抑える -
02
抗IL-5抗体製剤
気道炎症を引き起こす
好酸球※2の活性化を抑える -
03
抗IL-5受容体抗体製剤
気道炎症を引き起こす
好酸球を抑える -
04
抗IL-4/13受容体抗体製剤
IgE抗体が作られたり好酸球が
組織にひろがるのを抑えたりする -
05
抗TSLP抗体製剤
TSLP※3のはたらきを抑え、
アレルギー反応、
好酸球による
炎症など複数の炎症反応を抑える
※1:IgE抗体…血液中にある、抗体としての構造とはたらきを持つたんぱく質。アレルギーの原因となる物質に対して、アレルギー反応を引き起こします。
※2:好酸球…白血球の一種。アレルギー性の炎症が起きた際に増えます。
※3:TSLP…ほこり、冷気など外気からの刺激によって気道上皮(気道の表面を覆う細胞)で作られる物質。
※4:IL-25など、CM-CSF…サイトカインという物質で、炎症に関係する細胞の間で情報を伝達するはたらきがあります。IL(インターロイキン)にはさまざまな種類があり、それぞれはたらきが異なります。
※5:B細胞…白血球の一種。抗体を作ります。
※6:マスト細胞…白血球の一種。肥満細胞ともいいます。ヒスタミンなどのアレルギー反応を起こす物質を作ります。
※7:気道上皮…気道の表面の細胞で、外部からの異物の侵入を防ぎ、サイトカインを作ります。
※8:気道平滑筋…気道を形作っている筋肉で、サイトカインを作ります。
※9:好中球…白血球の一種。感染などが起きた時に増えます。
※10:気道過敏性…外部からの刺激に対する気道の反応性です。
【出典】
1)一般社団法人日本喘息学会:喘息診療実践ガイドライン2022, 協和企画, 2022, p.37